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水戸家庭裁判所下妻支部 昭和47年(少ハ)4号 決定 1973年1月08日

少年 K・O(昭二七・五・一〇生)

主文

本人を昭和四九年三月九日まで小田原少年院に継続して収容する。

理由

1  本件申請理由の要旨

本件申請の理由は、小田原少年院長作成の昭和四七年一二月二一日付収容継続決定申請書に記載されているとおりであるが、その要旨は次のとおりである。

本人は、昭和四七年一月一〇日水戸家庭裁判所下妻支部において医療少年院送致の決定を受け、同月一二日関東医療少年院に入院したのち、同年三月六日小田原少年院に移送され収容保護されているものであるが、昭和四八年一月九日をもつて少年院法第一一条第一項但書による期間が満了するところ、本人には右手首切断の身体障害者であるという劣等感などからくる性格の歪みがあり、保護者に保護能力が乏しく受入態勢も不十分であるので、社会復帰後も相当期間継続して専門家による観察指導が必要であるうえ、本人は出院後身体障害者のための訓練所で職業技能を修得することを希望しており、そのためには保護観察機関の援助を必要とする実情にあるので、本人を一四か月間継続して収容する旨の決定を申請する。

2  当裁判所の判断

少年にかかる少年調査記録中の各書類、本件審判における本人、保護者、小田原少年院法務教官水井四雄の各供述(意見)、家庭裁判所調査官渡辺澄雄作成の昭和四八年一月八日付意見書および調査報告書二通を総合して、次のとおり判断する。

(1)  本人の家庭は、父が眼病による身体障害者で生活保護を受けており、母は家出して行方不明となつていて、本人に対する監護に欠けていたことなどから、本人は、昭和三七年一二月養護施設(○○○○○○ホーム)に保護されていたが、無断外出数回に及び同施設での指導が困難となつて、昭和三八年八月教護院(○○学園)に措置変更となつたが、無断外出、窃盗非行を反復し、昭和四四年四月二三日水戸家庭裁判所下妻支部において強姦・強姦致傷・窃盗保護事件につき中等少年院送致の決定を受け、同月二四日印旛少年院に収容保護され、昭和四五年八月一二日仮退院となつて出院したが、同年九月職場で仕事中エアーハンマーで右手首を潰す事故にあい、そのため右手首を切断され、以後やけ気味となつて放縦・自棄的な生活を送るうち、窃盗などの非行を犯し、昭和四七年一月一〇日水戸家庭裁判所下妻支部において窃盗・建造物侵入保護事件につき医療少年院送致の決定を受け、同月一二日関東医療少年院に入院したのち、同年三月六日小田原少年院に移送され、同院において二級の下に編入され、同年五月八日少年院法第一一条第一項但書により収容継続(昭和四八年一月九日まで)が決定され、昭和四七年六月一日二級の上、同年九月一日一級の下にそれぞれ進級し、同年一二月一日には一級の上に進級している。その間昭和四七年一〇月二七日喫煙により謹慎五日の処分を受けたほかには、反則行為などもなく、一時横着な態度を示したり集会などで発言せず黙り込むなどの行動もあつたが、ほぼ順調に経過してきたことが窺われ、今後とも順調に推移すれば、院内における矯正教育の全課程は昭和四八年三月ころ修了し出院することが認められる。

(2)  本人は、以上の如く幼少時より施設生活が長く、家庭に監護能力が欠けていて十分な家庭愛に恵まれずに生育したため性格も歪み、加えて上記の如く右手首を切断してからは、放縦・自棄的な生活を送り、一層不平不満を抱きやすく偏狭的な性格が形成され自己が身体障害者であるという強い劣等感をもち、その性格の偏りはかなり大きいものがあり、その結果更生意欲を失い前回の窃盗・建造物侵入の非行を犯すに至つたものであつて、院内における処遇目的もその性格の矯正を重点指導項目として実施されてきたが、その目的が十分に達成し得られたとは必ずしも認められず、現在に至るも身体障害者であるという劣等感が本人の生活全体を強く支配していることが指摘できる。

すなわち、本人は、その性格傾向、家庭環境、心身の状況などに照らして、少年院法第一一条第一項但書の収容期間が満了する昭和四八年一月九日において、その犯罪的傾向はいまだ矯正されておらず、さらに収容を継続して本人に対し専門的な矯正教育を実施する必要があるものといわなければならない。

(3)  しかしながら、本人の前回の印旛少年院および今回の小田原少年院における通算約二年三か月間にわたる院内生活の経過をみると、小田原少年院で喫煙による謹慎五日の処分を一回受けたほかには、特段問題視するほどの反則行為はなく、院内での処遇はおおむね順調に経過してきていることが認められるので、今後必要かつ相当な期間を越えて本人に院内生活を強要することは、本人の社会復帰を遅延させ、ひいては本人の更生意欲を減退させるおそれがあるので、本人に対しては、昭和四七年一二月一日一級の上に進級しているので、その後の出院準備教育がなされ院内における矯正教育の全課程の履修が終了すると見込まれる昭和四八年三月ころには出院させる方針で処遇することが強く望まれる。

(4)  ところで、本人の上記性格傾向を是正して犯罪的傾向を解消し社会復帰を円滑かつ効果的に行なうためには、本人も希望しているように、出院後身体障害者のための職業訓練所に入所させて、本人に適した職業技能を修得させ、本人の右手首切断による劣等感を解消し放縦・自棄的な生活態度を改善し、健全な職業生活に裏付けられた社会復帰のための援助を行ない、その将来の方向付けをなさしめることが必要であつて、このことが本人に対する今後の処遇のなかで最も緊急かつ肝要なことであると思料される。当裁判所が昭和四七年一月一〇日本人に対し少年院送致の決定をした理由のひとつは、実に上記の如き処遇を本人に施すことが肝要であると判断したからにほかならないのである。

すでに小田原少年院において、東京都小平市の東京身体障害者職業訓練校や茨城県友部町の茨城県立リハビリテーションセンターなどに本人を入所させるため管轄保護観察所を通じて調整中であり、その実現が十分可能な状況にあつて、その訓練期間として約一か年間が見込まれ、その期間中保護観察機関の援助が必要とされている。当裁判所としても、本人の健全な育成および社会復帰のために、少年院および保護観察機関において、新たな資源開発を含めて上記職業訓練所への本人の入所が実現されるようになお一層の努力が払われることを期待し、切に希望する。

3、結論

以上の如く、本人は、昭和四七年一二月一日最終処遇段階である一級の上に進級しているもので、その後出院準備教育の期間を約三か月間として昭和四八年三月ころには院内における矯正教育の全課程を修了する予定であるが、上記本人の性格傾向、家庭環境、身体障害者のための職業訓練所への入所などを考慮すると、仮退院後約一か年間の保護観察を実施して本人の社会復帰を援助して指導監督する必要があると思料されるので、本人を昭和四九年三月九日まで収容を継続することを相当と認める。

そこで、少年院法第一一条第四項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木秀夫)

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